神秘の新疆、クルマ旅

かねてより思いはせた新疆へ、友人を誘ってクルマ旅に出ることにした。氷河、高原、岩石砂漠、峡谷、砂砂漠を渡る今回のルートでは、ちょうどシルクロードと玄奘三蔵の復路がつながる。

宗教・文化の「交差点」

カシュガル・ジュンガル地区(喀什准噶)

新疆は神秘に満ちた土地だ。旅行ガイド『ロンリープラネット』は以下のように述べている。「新疆はまさに旧世界の地理的中心であった。その雄大な山河は地中海、ペルシア、インドそして中華という分割された世界観と文明を築き上げたが、同時にシルクロードの往来で数千年もの間途絶えることなく世界を繋ぎ続けてきた。」中国最西端の町であるカシュガルは実に二千年以上も前から東西文化がぶつかる最前線として、そして数々のシルクロードのルートの拠点としてあり続けてきたのだ。

カシュガルは中国で唯一古代イスラーム文化の歴史的景観を残す古都だ。中央アジアの建築を踏襲した陸屋根で天窓からの採光に頼った四角い土の家。降水量が極端に少ないこの地では水害の心配はない。何もかもを乾燥させる太陽が、黄褐色や淡いオレンジの土壁を照り付けていた。

私はこの町で民宿に宿泊したのだが、夜でも戸締りをしないのには大変驚いた。町の人々はみな親切で、誰にでも気さくに話しかける。言葉が通じないときは辺りで遊んでいる子供を呼んで間に入ってもらう。子供たちも驚くほど自然体で、見知らぬ人に対する好奇心は尽きることがない。カシュガルに着いた旅人を迎えるのは彼らの人懐こい笑顔と(加筆)果てしない質問攻めだ。

私がカメラを構えても少しもひるまない。むしろ(加筆)手に提げているカメラを見て、多くの人が自ら撮影をせがんできた。「写真を送ってほしい」と進んで連絡先を教えてくれた人もいた。

中国側最後の関所

タシュクルガン

カシュガルを出発した私たちは、南下してタシュクルガン(塔什庫爾干)へ向かった。タシュクルガンはシルクロードにおける中国側最後の関所で、中原文明の出口と言える。雪山と氷河に囲まれた白沙湖や崑崙山脈の高峰ムズタグアタ山(慕士塔格峰)などに立ち寄りながら、車はパミール高原(帕米爾高原)の荘厳な山河に包まれた道を進む。車窓には果てしなく広大な景色が次々と展開されていった。

有名なカラコルム・ハイウェイ(中巴友誼路、G314)に入り、タシュクルガン・タジク自治県(塔県)に向かう。ここには世界一の海抜を誇る出入国審査場がある。標高が高く酸素が薄いこの地では、中国で唯一ヤクに乗ってパトロールする警ら隊の姿を見ることができる。

パミール高原は厳しい寒さと荒涼とした風景で世に知られる。しかしそんな過酷な環境にも代々住み続けるタジク族(塔吉克族)の集落があり、今日も国境を守り続けている。

私たちはそこから蟠龍(パンロン)古道を越えた。海抜三、四千メートルの天険、その山肌を縫い、208つものヘアピンカーブを右へ左へと走り抜ける体験はここでしか味わえない。

玄奘三蔵が復路に使った塔莎(ターシャ)古道をなぞってタシュクルガンからヤルカンド(莎車県)へのルートに入り、巨大な山脈と激流にはさまれた全長約三百メートㇽの道を進む。少しでも地理に興味がある者なら、誰もがこの千変万化の地形とその威光に心服せずにはいられないだろう。

忘れ得ぬホータンの往来

ホータン(和田)は、古くは于闐(うてん)と呼ばれたシルクロードの要衝で、かの和田(ホータン)玉(ぎょく)の産地として世に名高い。過去に中原王朝から降嫁してきた公主たちが養蚕技術をもたらしたことで西域における「絹の都」として発展したことでも有名だ。そして商業の繁栄はこの地を「美食の都」としても栄えさせた。

私はここで食べたサモサ(烤包子)で生まれて初めて「油酔い」を味わった。サモサとはタンドール窯で焼いたラム肉饅頭で(加筆)、その餡には羊の尻尾の脂身も使われる。その豊潤な脂の味と香りに一種の酩酊状態となり、足元がおぼつかなくなってしまった。

タクラマカン砂漠

タリム盆地(塔里木盆地)の中心に世界第二位の流動性砂漠——タクラマカン砂漠(塔克拉瑪干)が存在する。かつてそこに足を踏み入れたキャラバンは跡形もなく失踪すると恐れられた砂漠だ。タリム盆地を横切るタリム川流域に形成された胡楊(コトカケヤナギ)の林を見ると、過酷な環境下で生きるその毅然とした姿に生死とは何かを考えさせられる。

砂漠の中心地まで入ってみると村があった。そこは幻想的色彩に満ちた「砂漠の隠者」ケリヤ族(克里雅族)の住処だ。世間と隔絶した砂漠の番人となる生活を選んだ彼らは、紅柳(タマリクス)と胡楊の木でできた建物に住み、冬場は泥壁で寒さをしのぐ。彼らの服飾は至って質素なものだったが、それが却って彼らの精美な顔立ちを引き立たせていた。(表現の変更)

タリム砂漠の道路を丸一日かけて走り抜ける。全長五二二キロメートル、タクラマカン砂漠を横断するこの道路は流動性砂漠の中に建設された世界一長い道路だ。

今回の新疆を巡る旅で、私は中国の地相の多様さと民族ごとの全く異なる風情に感慨を覚えた。ああ、麗しいかな中国の山河。中国探求の旅はまだまだ続く。

寄稿者:風のような少年

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