北京の世界遺産「故宮」紫禁城への猫の宮廷入り物語

故宮は中国古代建築において比類のない傑作であり、貴重な世界文化遺産でもある。北京ないし中国に来るなら、故宮に行かなければならないだろう。しかし、猫好きにとっては、故宮が違う意味の聖地でもあるため、ここからは、故宮そのものではなく、故宮に住み着いた猫たちの話をしたいと思う。

猫の宮廷入りは、朱元璋から始まる

明代(1368年-1644年)初期、明太祖の朱元璋は後宮に御猫を大量に飼うように命じたことがある。明成祖朱棣は北京で紫禁城をつくり、「宮廷で猫を飼う」ことも伝承した。それで、可愛い猫たちが紫禁城に住み着き始め、そのまま600年を超えた。

紫禁城の御猫は地位が高く、特製の「猫部屋」で飼育されていた。「猫部屋には三四人の使用人を付け、専属的に猫に奉仕し、皇帝のお気に召す猫に、肩書を与える。」そう、見間違えではない、この猫たちには、専任の世話人がつくだけでなく、肩書まであったのだ。

万暦帝(1573年-1620年)の在位中、宮廷中に猫好きな風習は頂点に達し、万暦帝が御猫に「猫管事」、「○○管事」など職位を授け、同階級の大臣が上から恩恵を承る場合、「猫大臣」も同様にもらえるとした。もし猫が亡くなったら、諡号まで付けられ、特に愛された猫なら、弔辞をつくる人さえいた。

紫禁城にいる猫の地位は、その大体が飼い主の地位によって決められた。品のある猫が宮廷の使用人に手厚く育てられ、皇帝に贈られ、もしお気に召されたら、一気に玉の輿に乗るように「御前猫」となり、その他の猫が妃嫔又は大臣に配られた。

猫の扱いは現代人より拘っていた

中国には「一に命、二に運、三に風水、四に業、五に読書、六に名、七に相、八に神拝、九に貴人と友になる、十に摂生」という言い伝えがあるように、昔の人は名付けを大事にした。猫に名前をつけるときも同じ位慎重だったのである。典籍に記載のある猫の名前は多種多様で、見た目や性格によるものもあれば、祈りことを込めて縁起のいい言葉にする時もあった。

昔の人たちは猫の見た目から、趣のある名前をたくさん付けた。例えば「尺玉霄飛練」という名の猫は、全身真っ白で、瞳が青か色違い、別称白雪または雪玉。この品種の猫はペルシャ猫と魯西狸猫の間に生まれる品種で、頸部の毛が長い。多くの品種の中で、青色の目と黄色い目を一つずつ持ち、全身雪のように真っ白の猫が一番貴重な品種で、「鴛鴦目獅子猫」と呼ばれている。

全身黒か黄色、足だけが白い猫には「踏雪尋梅」と、全身殆ど白で、背中だけが黒い猫に「烏雲覆雪」、体は白いが、足だけが黒い猫に「雪夜交兵」などという名前を付けた。

もちろん、その他にいい名前はまだまだある。「墨玉」、「墨に針隠し」、「口に蝶々」、「錦の転がり」などなど盛りだくさん。詳しく猫を分析する専門書『相猫経』まで存在する。

「故宮の猫になりたい」

600年後の今でも、宮猫は依然としてそこで暮らしている。故宮在籍の猫200匹が、故宮博物院で働いているスタッフの同僚で、自分の「勤務エリア」さえ持っている。しかし、かなり長い間これらの猫たちは野良猫だった。故宮のスタッフは善意と優しい気持ちで、猫たちの世話をし、暖かい家庭を与えたからこそ、ここまでやってこられたわけだ。

八年前、阿芙さんは大学を卒業して、故宮博物院に採用されたことをきっかけに、野良猫救助チームに正式に入隊した。年をとった猫には、治療などのお金がかかり、ごく普通の故宮スタッフにとって、大きな負担になる。経済的な負担の足しにすべく、阿芙さんはvlogで宮猫の宮殿生活を記録することに決めた。

阿芙さんがショート動画アカウントを開設する目的は、宮猫の日常をシェアするだけでなく、野良猫のことをみんなに見てもらい、ペットを飼うことは飼い主にとって、責任感が必要で、ただ一時の楽しみではないということを伝えたいというものである。

これらのユニークで貴重な映像が忽ち視聴者の心をとらえ、この「宮猫図鑑」というアカウントは九五万人のフォロワーを抱えるようになった。多くのネットユーザーは故宮のような厚い歴史の蓄積のあるところで生活できる宮猫たちの落ち着いた姿に憧れ、「故宮の猫になりたい」とコメントし、さらに、キャットフードを持って、故宮観光を目的ではなく、猫に癒しを求めるファンまで現れるようになった。一番大きな成果は、ショート動画の拡散によって、寄付金も寄せられるようになり、宮猫たちはこれでより良い生活を送ることができるようになった。これで老後も安泰である。

日に日にファンの数が増え、数匹の猫は故宮の「名物」になった。景仁宮で生まれた毛の長い白黒模様の猫は映画の鰲中堂という人物に似ているため、「鰲拜」と名付けられた。頤和軒の「小崽児」は可愛くて人に懐っこく、毎日のように観光客と遊んでいて、そこの「生きる景観」となった。「白点児」は右翼門付近をゆっくりと散歩したり、物静かに壁の下で休んでいたりしている。有名になったきっかけはワールドカップの試合の結果を六回も予測し、当てたからだ。

故宮の主は歴史の川に流されていった。今ここに住み着いているのは代々の猫たちだ。故宮は世界で最も完全の状態で保管された木造宮殿建築群であり、猫を飼うと、建物に影響があるのではないかという疑問を抱える人は少なくないだろう。実は古代の建築を守るのに一番大事なことは、ネズミ対策である。これまでの数百年、宮猫たちこそ、大きな手柄を立ててきたのだ。

現在、世間の人々にとって「宮猫」は宮殿を守る「爪のある侍衛」だけでなく、故宮博物院にある特別な景観でもある。故宮博物院の包容さの中で、猫たちは野良猫のように自由にはしゃぎ、ペットのように自信を持って人と親しみ、まさに猫の形をした主のようだ。

—「知了XFuture」より

                                              

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