易しい言葉で理解する雅で上品な昆曲(昆曲の美しさ)

昆曲衣装図鑑

昆曲の演劇表現には様々な服装や道具があり、それらはまとめて「行頭箱」と称される。「行頭箱」とは分かりやすく言えば衣装、道具などの舞台美術のことであり、衣、盔(盔や帽子など)、雑(髯や靴など)、そして把(刃物や槍など)が含まれている。昆曲の衣装道具は系統だって完備されており、美術、刺繡、色彩、歴史など各種類の文化芸術要素が融合している。

その結果、演劇の衣装や道具を製造する技術も生み出された。蘇州手工業の真髄と匠の心の結晶であり、蘇州をはじめとする呉文化の中できらきらと輝く真珠であるこの文化は、現在、中国国家級の無形文化遺産となっている。手工業で一回につき一つしか作らないというやり方で衣装、盔・帽子、靴、刃・槍、付髭、頭飾りという6大種、1000品種以上の演劇道具を作り続けているのは、今では蘇州人だけである。

・衣装

蘇州は古くから江南地区におけるシルクの重要な生産地であり、その清新典雅で麗しい蘇州刺繡は世界的に有名である。蘇州で生産されるシルクが職人の手で裁断され演劇衣装へと姿を変えると、素地の草花、龍や鳳、瑞雲などの模様が蘇州刺繡の技術で生き生きとしたものになる。そのおかげで昆曲の舞台により柔らかさと美しさが生まれ、江南の気品が伝わるのである。

「相応しくない衣装なら、いっそボロを着るほうがましだ」。これは昆曲界の業界用語であり、役者一人ひとりが厳守しなければならない身なりのおきてである。さらにこれは昆曲の独特さを表している。つまり、登場人物一人一人に生き生きとした固有のイメージを必ず持たないといけないということである。そこで、彼らの服飾に対しても常により良いものが追及され、その様式、色、模様、材質などもそれぞれ異なってくる。そうすれば役者の身分・役割、個性や特徴が反映され、ストーリーを際立たせ、雰囲気を盛り上げ、舞台効果を高めることができるのだ。

衣箱と盔箱にはそれぞれ衣装と装飾が含まれる。この二つがすなわち昆曲の全服飾である。衣箱はまた、大衣箱、二衣箱、三衣箱に分かれる。大衣箱に含まれるのは文官の服装である。つまり、皇帝・王侯・将軍などが着る、金糸で大蛇の刺繡(龍のような形)が施してある「蟒袍」、役人が着る、胸と背中に方形の模様が施されている「官衣」、平服や下着である「褶子」、肩と背中にかける「帔」などのことである。二衣箱には武服と武装、つまり武将が身に着ける鎧である「靠」、短いズボンなどが含まれる。三衣箱は靴箱とも呼ばれ、靴、シャツ、靴下などが含まれる。盔箱には皇帝、将軍、王妃が被る華麗な冠、武将の盔、様々なキャラクターに合う頭巾と帽子、そしてそれらに合わせる飾りなどが含まれる。もちろん付髯も装いの一部であり、その長さ、量、色によって人物の年齢、性格、感情、境遇の違いを表す。

同じように、衣服の色の違いで階級の違いを表現する。全部で10種類の色の違いがあり、黄、赤、緑、白、黒は「上五色」と呼ばれ、年齢が高く、尊い身分の人物に使う。「下五色」はピンク、紫、銅色、藍、浅葱色であり、比較的地位が低く、若い人物に使われる。

時代の変化に伴い、昆曲役者の装飾が持つ意味合いは単なる衣装装飾という意味を超え、演劇芸術の一部となった。例えば、「当場変」という種類の劇では、役者の衣装には引けばすぐほどけるようになっている結び目があり、これを軽く引っ張ると服の色と様式が変わるようになっている。また、水袖(袖口についている長い白絹)は、役者の技術を示すためだけではなく、劇のなかでキャラクターの優雅さや美しさをより表現するために使われる。

・化粧、髪型

昆曲に登場するキャラクターの化粧は普段の化粧とはかなり異なる。舞台上の人物の外見的イメージは、その人物の品格や性格を映し出すものだ。そのため、昆曲の化粧は芸術性を持った二次創作として理解できるだろう。伝統的な昆曲の化粧は「潔面粧」と「花面粧」に分けられる。生(男役)、旦(女役)の化粧は美しさを目的としており、白、赤、黒という三つの色しか使わないため「潔面粧」や「俊扮」(すっきりとした化粧)とも称されている。手順としては、まず肌色のドーランを顔に塗り、眉を書き、頬紅を付け、口紅を塗る。キャラクターの雄々しさや老いて意気消沈した姿を浮き彫りにするために赤や黒を重くしたり、いっさい色を塗らない「清水顔」によってキャラクターの苦しい運命を表現したりすることもある。

中国の伝統劇に登場する人物の着付けでもっとも特徴的なのは、布製のバンドを額に締め、眉毛や目の端を持ち上げ、気合の入った顔に見せる「頭絞め」である。男性キャラクターは普通かつらか冠を被るが、女性キャラクターは「貼片子」と「包頭」(頭を締めつける)によって髪型を作る。「貼片子」とは額や頬に貼り付ける波線状の薄いかつらである。「包頭」の髪型は基本的に三種類ある。一つ目は後頭部で髪を楕円形の団子型やこぶし型の髷にした「伝統大頭」で、これは女性キャラクターの髪型としてはもっとも一般的なものである。二つ目は「旗装頭」と呼ばれる清代(1636年-1912年)の満族の髪型で、旗袍(チャイナドレス)に合わせて中国少数民族のキャラクターを表現する。三つ目は髪を頭頂部で結い上げたうえにセットのかつらをかぶり、放射状に梳かした「古装頭」である。これは京劇の名匠、梅蘭芳が古代の絵画から女性の髪型を引用して考案したもので、のちに昆曲をはじめとする他の伝統劇の衣装にも影響を与えた。役柄を区別するため、髪型を作り終わったあと、エメラルドやラインストーン、銀メッキの髪飾りをつける。

・臉譜(花面粧)

臉譜とは前述した「花面粧」のことで、役者の顔に決まった模様の誇張された隈取を施すことである。舞台では、色は常に観客の目を引く最初の要素である。抽象的な線と色の塊を組み合わせて誇張を含みつつも芸術的な隈取を作り、昆曲のキャラクターの心情や表情を視覚的に表現する。また、昼は隠れ夜に外出するコウモリ、こそこそした性格を表すネズミなど、ある象徴として動物を描くこともある。

明代(1368年-1644年)以降、隈取は芝居や演劇芸術の発展につれて、次第に現在の大面、二面、小面という分類へと進化した。大面は顔のメインカラーによって赤浄、黒浄、白浄に分けられたもので、赤と黒が主である。二面は鼻と顔の中心部が白く塗られている。小面も同じく鼻が白く塗られるが、その面積がいちばん小さいため小面と呼ばれる。人々は常々「臉譜化」(定番化)という言葉を「永遠に変わらないもの」を指す言葉として使うが、昆曲という演劇表現では隈取とは一人一人のキャラクターに対応した、重複しない、唯一無二の存在なのである。

・砌末

昆曲の舞台装置や、役者が登場するときに持つ服飾以外の全ての物や道具は、砌末(まとまりのない道具や簡単な背景)と呼ばれる。砌末を入れる箱を「旗把箱」と呼ばれ、「把子箱」と「旗包箱」を含む。「把子箱」とは、各種武器の集合場所で、主に刀、槍、剣、斧、鞭、棒などがある。これらの武器はみな竹、木、藤によって作られ、水銀と漆でコーティングされているため、リアルでありながら人を傷つけることはない。旗、机や椅子、机の上の敷物、文房四宝(筆、墨、紙、硯)などは全て旗包箱に含まれている。その種類は幅広く雑多で、演目によってはランダムに新しい道具が追加されることもある。

砌末は単なる舞台の飾りや背景に見えるが、昆曲では芸術的二次創作と呼ばれるほどの役割を果たしている。昆曲の舞台は簡単素朴で写意にこだわり、一つ一つの舞台、幕、シーンは森羅万象を網羅する。役者たちの演技だけではなく、観衆の共感と想像をも求める。例えば、馬の鞭はそのまま鞭として使われることもあれば、疾駆する馬の象徴にもなる。水旗(方形に波模様がついた白い旗)を振れば波濤逆巻く河川湖海になり、車輪が描かれた布を掲げるとそれは鳳輦(豪華で貴重な駕籠)に乗っていることを意味する。

砌末は昆曲の舞台において極めて重要な構成要素であり、役者たちにさらに良い演技を求めるだけではなく、観衆に対しても演劇をより高いレベルで見るよう求めるものである。舞台の美しさ、劇の雰囲気の美しさ、曲目の美しさ、それらはどれでも欠けてはならないものなのである。

ABOUT US