西安と長安、2つの顔を持つ街

01 西安と長安、2つの顔を持つ街

鐘楼、鼓楼

鐘楼は三層の「ひさし」を備え、てっぺんが尖った屋根には緑の瑠璃瓦が敷かれている。柱がむき出しとなった回廊や、細かい装飾が施された小窓、花柄が彫られた門の扉には、明代(1368年―1644年)の建築スタイルが窺える。夜の帳が下りる頃には、鐘楼の前は行き交う車で溢れ、テールライトが赤々と灯り、古代の趣きと現代の繁栄が絶妙な具合で融合する様子を見ることができる。

古人は「晨鐘暮鼓」と呼ばれる時報制度を採用し、朝は鐘を突き、夜は太鼓を叩くことで街に時を告げていた。その名残である鼓楼と鐘楼は遠く離れているが、それでも互いに向かい合って佇んでいる。鐘楼の北西側の角には天下一の名鐘「景雲鐘」がある。一方の鼓楼には、ギネスに最大の太鼓として認定された「聞天鼓」が置かれている。景雲鐘と言えば、中央人民広播電台がこの鐘の音を録音し、毎年除夜の夜に行く年を送り来る年を迎えるための「新年の鐘」としてずっと使用してきたことも特筆すべきだろう。

大唐不夜城

大唐不夜城は唐代の建築を再現した歩行者天国で、その名の通り、ここの夜の景色は美しく、見る者を圧倒する。古さの中にも美しさが感じられるランタンや、煌びやかなイルミネーション、多種多様なストリートパフォーマンスなど、ここではクラシックとモダンが二人三脚で夜の景色を盛り上げている。

始皇帝の兵馬俑

兵馬俑は「世界の八大奇跡」の一つと称されている。これを見た者はみな秦の時代の工匠の創造力に感嘆する。秦の匠たちの丹寧な仕事により、それぞれの俑の装束、表情、素振りは唯一無二である。世にまったく同じ葉が存在しないように、兵馬俑には完全に同じ俑が存在しないのだ。

古都の四季

春・青龍寺

青龍寺には桜園がひっそりと隠れている。ここの桜は十数年前に日本から持ってきたもので、どこか冷たさと寂寥さを感じる寺院に一抹の色彩を添えている。唐の全盛期、中国と日本との文化交流はピークを迎え、数え切れない日本人僧侶が青龍寺を訪れた。映画『空海―KU-KAI―』に登場する空海もかつてここで仏法を学んだ。

夏・大唐芙蓉園

大唐芙蓉園は唐代芙蓉園の遺跡より北に位置し、唐の皇家庭園を再現したものとしては、現在中国で最大である。全盛期の唐の面影を身体で感じ、水上の回廊を歩いてみよう。目に映る蓮池や落日は千年前の風情をそのまま感じさせてくれるだろう。

秋・大雁塔

遥かに千を越える秋を、大雁塔はこの土地に佇みながら過ごしてきた。その古朴ながらも威厳がある姿は、滔々と変遷してきた時代の空気感を漂わせている。ここを訪れ、千年の古都の秋の景色を見つけてみよう。大雁塔北広場に行ってアジア最大の音楽噴水ショーを楽しむのもお勧めである。

冬・城壁

冷たい冬が訪れても、西安は変わらず風情ある街だ。「雪が降ると西安は長安になる」という言葉があるほどだ。雪が降り積もったら城壁に登り、ロマン溢れる雪景色を鑑賞してみよう。ほかにも、人ごみを掻き分けながら賑やかな新春灯会(新春ランタン祭)に足を伸ばし、濃厚な中国旧正月の雰囲気を感じるのもいいだろう。


関中の味

羊肉泡饃

この四文字は西安の代名詞である。お碗によそわれた羊肉のスープは、新鮮な肉と濃厚な出汁が堪らない。饃(モー)と呼ばれる素焼きのパンを小さくちぎり、スープに浸しながら食べると、口もお腹も満たされる。まさに後味尽きない「関中の味」なのである。


擀麺皮、肉夾饃

西安人はその持ち前の小麦粉料理に対する情熱によって、ごく普通の麺皮(小麦粉を薄く伸ばしたもの)についてさえ、研究に研究を重ねてきた。ひんやりとした口当たりが爽やかな「擀麺皮」とジューシーで柔らかい「肉夾饃」は夏には欠かせない組み合わせである。

摔碗酒

摔碗酒とは陜西省の民俗風習で、そのポイントはお酒を飲むことではなく、酒碗を投げ捨てることにある。酒を飲みほした後、地面に叩きつけるように碗を投げる。人々はこの動きに「不和や争いが無くなりますように」「ずっと平安無事でいられますように」「豊かな生活を送れますように」など様々な意味を込めている。あなたがどこから来た人であろうと、ここを訪れ、注がれたお酒を飲み、碗を投げさえすれば、もうあなたは「西安人」なのだ。

西安はユニークな街だ。ネットの人気者が集まる現代都市でありながら、同時に、千年の古都が醸し出す風情も留めている。ここで目にする雨や雪、日の出・日の入りは、千年前の長安と何ら変わらない。何気なく顔を上げると、あなたはそこに時を超えて浮かぶ明月を眺めることができるだろう。ひょっとしたらもうそこは過去から蘇った長安なのかもしれない。

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