中国で唯一の自立経営型動物園「紅山森林動物公園」。最近、この動物園の動物に対する接し方が話題となり、中国で最も「動物園らしからぬ」動物園として、一晩のうちに動物園界隈のトレンドになった。今日はこの南京にある動物園を歩いてみた。
紅山動物園では、ほかの動物園のように動物ショーを行わない。動物たち全員に名前を付けて大切に扱うだけでなく、来場客により親しんでもらうため、各エリアに一頭一頭の性格や好物を書いた紹介パネルを設置している。例えば「用心深くて寝るのが大好き」なヒョウの女の子「タオズ(桃子)」。3歳のゴールデンチークテナガザル「チウシー(秋実)」には、23歳のママ「ダーホワン(大黄)」と同じ歳のパパ「ダーヘイ(大黒)」という私たちと同年代の両親がいる。1989年生まれのマレーグマ「ラオマー(老馬)」は熊館で余生を過ごす動物園の元老だ。こうした紹介を読んでいると、彼らはみな喜怒哀楽を理解し、それぞれに嗜好と個性を持つ平等で生き生きとした生命体であり、決して単なる「獣」などには思えなくなる。
老衰と生死
2022年12月31日13時30分、一通の訃報が大衆の関心を引いた。「マレーグマの『ラオマー』(1989-2022)が熊館バックヤードにて静かに息を引き取りました。享年33歳、自然死でした。」猛獣エリア技術チーフマネージャー劉媛媛の文章は簡潔ながら、抑えきれない感情が伝わってくる。「ラオマー」という1989年生まれのマレーグマがいたこと。彼は元々パフォーマンス集団に所属していたこと。1998年にこの動物園にやって来たこと。そんな文章が世間の脚光を浴びるとは彼女も夢にも思わなかっただろう。
動物園の古株「ラオマー」は多くの南京市民にとっての幼少期の思い出だ。ネットユーザーの中には、子供の頃の自分と一緒に写っているマレーグマが若かりし日の「ラオマー」だと、彼が逝去したあとで知ったという者も多くいた。1998年に妻と一緒に玄武湖動物園から引っ越してきた彼は、それからずっと紅山動物園の変化を見守ってきた。そして晩年、愛しい妻との死別、そして住み慣れた熊館のリフォームという二大ショックを経験する。2010年、動物愛護や生活環境の改善のため、紅山動物園は動物ショーとエサやり体験を中止し、「ラオマー」の住む熊館を含めた多くの動物館舎のリフォームを始めたのだ。それにより一時的に姉妹動物園へ移った「ラオマー」夫妻だったが、同年妻に癌が見つかり、一緒に紅山動物園に戻ることは叶わなかった。
2021年に紅山動物園に戻ってきた当初、「ラオマー」は目に見えて衰えていた。歯はほとんど抜け落ちて口臭もひどく、食べる量も激減して、よろよろと歩くようになっていた。その後、沈志軍園長の「フロントヤードに出て養老生活を過ごさせる方がよい」という提案で、同年3月から「ラオマー」は飼育員に連れられて散歩する姿をたびたび見せるようになった。山や川、急斜面や谷など、野生の生活環境を再現した新しい熊館のフロントヤードを、視力が衰えた「ラオマー」がどれだけ見えていたかは分からない。嗅覚や聴力を頼りに散歩する彼に劉媛媛が付き添い、足を踏み外さないよう、はちみつやミルクの匂いで彼を誘導した。
2022年夏、生放送のカメラがリニューアルした熊館に向けられた。画面に映る散歩を終えて岩に腰かけて休憩する飼育員と、その横に寝そべる「ラオマー」の様子は、まるで静かに寄り添う若い孫と優しい祖父のようだった。飼育員たちは、「ラオマー」の食が進むように大好物のおかゆを適度に温めたり、彼が寒くないよう、フカフカのわら束を敷いた寝床の周りを電熱ヒーターやオイルランプで暖めたり、「祖父」が少しでも長生きできるよう心を尽くして労った。「あの時の気持ちは家族が亡くなったときと何も変わらなかった。」劉媛媛は「ラオマー」が逝去した日を振り返り、そう言った。
境界と挑戦
紅山動物園の飼育員は、動物たちへの餌やりやケアなどの日常業務のほか、飼育に必要な所作も身に付けなければならない。2022年11月、年に一度の健康検診のため、劉媛媛とその同僚はネコ科館の動物の採血に大忙しだった。紅山動物園では、動物たちが採血に抵抗感を感じず、少しでもリラックスして受け入れられる方法を採用している。飼育員のいつも通りの呼び声を聞いて、檻の中のヒョウはゆっくりと近寄り、金網一枚隔てた飼育員の傍に腰を下ろした。劉媛媛が好物の牛肉と卵が入ったボウルを差し出し、ヒョウが気を取られているうちに、別の飼育員が木の棒を使って檻の下の隙間から尻尾を外に出す。そこをすかさず獣医が採血するのだ。
こうした採血を、飼育員たちは一か月余りという短期間で館内全ての動物に行う。もちろん一連の作業には長年にわたって築かれた動物との信頼関係が大前提で、動物たちの気持ちや意志を尊重する小さなことの積み重ねなければ、信頼は生まれない。例えば何気ない「扉を閉める」という単純な動作でも、動物園内では非常に大きな意味を持ってしまう。野生動物の世界に金属同士がぶつかる音は存在しないため、多くの動物は金属の扉がバタンと音を立てるだけで敏感に反応し、不快に感じてしまうからだ。ネコ科館で動物たちと過ごすうち、劉媛媛も普段からそっと扉を閉めるのがくせになったという。
理念と価値
沈志軍園長の目には、紅山動物園のすべての「住民」、そのすべての生態系が大切に映る。多くの動物は自然界の生態ピラミッドの底辺に位置するが、一つとして無駄な動物はいない。それぞれが生態系のバランスにとって重要な役割を持ち、自らを捧げることで物質の循環を促す。生命の偉大さと言うほかない。
私は熊館に戻り、改めて劉媛媛たちが「ラオマー」に宛てた「手紙」を静かに読んだ。四段目に目を留める。「『ラオマー』が初めて熊館のフロントヤードに出た日のことをありありと思い出します。美しく気持ちのいい春の日でした。『ラオマー』は菜の花の傍に座り込んで、舞うように飛ぶ蝶々をしげしげと見上げていました。街から吹いて来て、また街へと戻っていく暖かい風が、まるで少しの間この場所にたたずみ、「ラオマー」と静かに憩っているような、そんなのどかなひとときでした。」
寄稿者:Travel_旅の記録