今回の「西遊記」の主役は孫悟空ではなく、名もなき小さな妖怪である。

「唐僧一行が行けるのなら、私たちだって行けないはずがないでしょう?」

2025年の夏、アニメ映画『浪浪山小妖怪(Nobody)』がスクリーンに登場した。本作は、2023年に大ヒットした短編『Yao-Chinese Folktales』を原作にしたもので、中国の2Dアニメ映画の興行収入記録を一気に塗り替えた。物語は『西遊記』の世界に生きる名もなき小さな妖怪に焦点を当て、再び観客の心を的確に捉えた

映画は同様に『西遊記』を原典とし、短編をベースに登場人物の群像や物語の支線を豊かに広げた。西天への経典取経という背景のもと、寓話的な趣を帯びた不思議な旅路が描かれている。

子豚の妖怪、ヒキガエルの精、イタチの精、ゴリラの怪物から成る“偽取経チーム”は、ランラン山を追われたのちに取経の旅へと踏み出す。大志を抱いて出発するものの、たびたび挫折に見舞われ、自らを疑う日々が続くが、最後には絶体絶命の中で覚醒し反撃、背水の陣を敷く——こうして全く新しい物語が幕を開ける。

『西遊記』は中国の観客にとって耳慣れた物語であり、小説・映画・アニメ・ゲームなどへの数々の改編を経て形成された「西遊ユニバース」は、現代の文芸創作においても広大な想像の余地を提供している。

明清時代、中日文化交流が深まるにつれ、大量の通俗文学書籍が日本に伝わり、一部の小説は現地の文化習俗に合わせて改編されていった。中国四大名著の中でも、『西遊記』を原作とした作品が最も多く、唐僧とその弟子たちが遥かな旅路で九九八十一の困難を乗り越え、西天に到達し真経を得るという奇幻に満ちた物語は、今なお世界中で愛されている。

早く1940年、日本の映画界で白黑映画『孫悟空』が公開され、これが映画史上初の『西遊記』を原作とした作品だった。1978年にはテレビドラマ『西遊記』が放送され、日本で一気に「西遊記ブーム」が巻き起こった。1993年と2006年には新たな『西遊記』が相次いで制作された。また、『ドラえもん:のび太のパラレル西遊記』『ドラゴンボール』『最遊記』なども『西遊記』の要素を取り入れている。映画、ドラマ、アニメ、ゲームから日常生活に至るまで、西遊記文化の影響力は深く人々の心に刻まれている。

そして今、『浪浪山小妖怪(Nobody)』の成功は、古典を単純に復刻したのではなく、まったく新しい視点から古い物語に現代的な生命力を吹き込んだ点にある。

映画の中で、小さな妖怪たちが取経の途中で出会う幻想的な山河の風景もまた観客の目を引いている。山西の晋祠水鏡台、永安禅寺、善化寺などのロケ地は、観光客がこぞって訪れる人気スポットとなった。

晋祠水鏡台

永安禅寺

善化寺の四大天王の一尊

ゲーム『Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)』からアニメ映画『浪浪山小妖怪(Nobody)』まで、次々と“新しい西遊記”の物語が生まれ続けている。西遊記文化を愛する日本の皆さんも、ぜひ自ら中国の地を訪れ、映画やアニメでおなじみの要素の足跡をたどりながら、本物の幻想的な山河を探し、新しい西遊記物語ならではの魅力を体感してみてください。


寄稿者:凛


ABOUT US