雲南省文山チワン族ミャオ族自治州に、まるで仙境のような場所がある──それが「普者黒(プージャーヘイ)」である。昆明から高速鉄道でわずか1時間という近さにありながら、ここには中国でも他に類を見ない自然と文化の饗宴が広がっている。カルスト地形の峰々と湖の群れ、一面に咲き誇るハス畑、神秘的な鍾乳洞、そして千年を超えるイ族(イー族)の伝統文化──それらすべてが見事に調和し、訪れる人を魅了してやまない。
仙境に咲くハスと峰々
「普者黒」とは、イ語で「魚やエビがあふれる湖」を意味する。夏が訪れると、この地は一面のハスに包まれた楽園へと姿を変える。中国最大級の野生ハスの観賞地として、約300種類ものハスがここに根を下ろし、広さ1,300ヘクタールのハス畑が一斉に花開く。なかでも「大洒錦」や「並滴蓮」といった珍しい品種が、まるで宝石のように咲き誇り、訪れる人の目を楽しませてくれる。
驚くべきことに、このハスの海は、300を超える孤立峰と54の湖が織りなす“水上の田園風景”の中に美しく溶け込んでいる。カルスト地形の峰々が点在し、湖は互いに連なって水路となり、山影が水面に映り込み、ハスの香りが風に乗って漂う。そこに広がるのは、まさに中国美学が描く幻想的で空気のように澄んだ風景──心がそっとほどけるような、静けさと詩情に満ちた世界である。
鍾乳洞に広がる幻想の光と影
普者黒の魅力は、山や水の美しさだけにとどまらない。青龍山の麓にある「青丘画壁」は、カルスト地形の天然鍾乳洞を舞台に、『山海経』の世界をテーマとした幻想的な体験スポットである。ホログラム映像技術を駆使し、古代神話に登場する奇妙な生き物や壮麗な風景が、鍾乳石の間にまるで生きているかのように浮かび上がる。神秘とテクノロジーが融合したこの空間は、まさに時空を超えた幻想世界への入り口である。
一歩足を踏み入れれば、まるで幻想の秘境へと迷い込んだかのよう。移ろう光と影の中で、神話の物語が次第に形を持ちはじめ、その夢のような世界に、思わず帰ることさえ忘れてしまいそうになる。
舌で味わうハスの風味
夏の普者黒では、空気の中にさえハスのほのかな香りが漂っている。その香りはやがて食卓へと姿を変え、味覚の喜びへと昇華される。地元の人々は、ハスの葉やレンコン、ハスの実、そして花びらまでを使って、美しく彩られた「ハスの宴」を丁寧に作り上げる。
ハスの葉でじっくり煮込んだ鶏スープは、濃厚で旨味たっぷり。レンコンと豚足の煮込みは、とろけるように柔らかく、ほんのり甘い香りが広がる。ハスの花びらを使った玉子焼きは、芳ばしい香りが食欲をそそり、ハスの葉の香りをまとったご飯や、透明感あふれるハスの花ゼリー、レンコンの形をした緑豆ケーキなど、見た目にも美しい品々が並んでいる。ひと口ごとに、自然の恵みをまるごと味わえる贅沢な時間である。
千年にわたる祝祭の継承
夏の普者黒は、イ族文化の熱狂が舞い踊る季節でもある。千年以上にわたって受け継がれてきた「花顔祭(ファーリェンジエ)」や「たいまつ祭り(火把節)」が、この地を華やかに彩る。7月18日から約1か月間、村じゅうが祝祭ムード一色に染まり、誰もがその賑わいと興奮に包まれる。
レスリング大会ではイ族の勇ましさが表現され、伝統の歌や舞踊からは素朴で熱い情熱が伝わってくる。そして、なかでも訪れる人々が最も楽しみにしているのが「顔に花を描く儀式(抹花顔)」である。香ばしい草木の灰を顔に塗り合い、黒くなればなるほど幸運が訪れるという願いが込められている。たいまつに火が灯され、笑顔いっぱいの“花顔”が浮かび上がるとき、千年の文化が生き生きと息づき、心を揺さぶる光景が広がる。
普者黒は、自然が生み出した傑作であり、人々が守り続けてきた文化の宝でもある。この地を訪れれば、ハス畑の中に詩情を見出し、祭りの中に文化の息吹を感じることができるでしょう。心に深く刻まれる、普者黒ならではの魅力を、ぜひ体感してみてください。
寄稿者:阿茶