兵馬俑識別ガイド、始皇帝の「フィギュア軍団」の見分け方

始皇帝への評価は人それぞれである。とはいえ、少なくても次の点に関しては異論がないだろう。つまり、彼は並みはずれたフィギュアオタクだったのである。

死を全く恐れなかった始皇帝は、数量も種類も莫大な「フィギュア」の持ち主だった。これら「フィギュア」の中で最も目を惹くのは、彼の帝国軍である。この勇猛果敢な軍勢は、「西は流砂を渡り、南は北戸(当時、遠く南方にあった国)に至った。東は東海(東中国海)に臨み、北は大夏(太原の旧称)を超え」、高くそびえる大秦帝国を造り上げたのである。そして今日に至るまで、彼らは変わらず鉄壁の構えで敵を待ち受けている。彼らの表情は一体一体異なり、兵種や階級の違いもはっきりと見て取れる。

01 立射俑

出土位置:秦始皇帝陵兵馬俑二号坑

外観:平装、鎧はなし。足には布を巻き、長方形でつま先上がりの靴を履いている。兜や頭巾はかぶっておらず、髪の毛はみな上結いの髷である。『呉越春秋』の記載によると、立射俑の姿勢は矢を射る姿勢であり、左足はまっすぐ前を向き、右足は横向きで、左手は樹木の枝につかまるかのようで、右手は子どもを抱くように構えている。前に出された足はわずかに曲げられ、後ろに残された足にはぎゅっと力が込められている。

装備:

兵種:軽装歩兵

役割:先鋒、前線で射撃を担う。

爵位:(おそらく)一級公士

02    跪射俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑二号坑

外観:膝まである長い襦を着ており、その上に甲冑を装備。足には長方形の靴を履き、髪型は上結いの曲げで統一。左足を曲げて屈み、右膝は地面についている。両手の姿勢は弓弩を抱えて発射まで待機する形。

装備:弓弩

兵種:重装歩兵

役割:立射俑と共に弩兵の布陣を敷き、交代で射撃を担う。

爵位:(おそらく)一級公士

03    一般武士俑

戦袍武士

鎧甲武士

出土位置:秦始皇陵兵馬俑一号坑、二号坑、三号坑

外観:戦袍武士俑は平装で直立し、足には布が巻かれ、頭髪は髷にしている。鎧甲武士は鎧を装備し直立、足には布が巻かれている。頭髪は、伸ばして頭の後ろで結っている者もいれば、先が尖った麻布の頭巾を被っている者もいる。

装備:弓弩、長柄武器(戈、矛、戟、鈹、殳)、短柄武器(短剣、彎刀、金鉤など)

兵種:歩兵、車兵

役割:戦袍武士俑は陣前において先鋒として敵に遠距離攻撃を仕掛けたり、後方および両翼に対する敵の奇襲を防いだりする。鎧甲武士俑は陣中でその他の兵種の兵と共同で作戦を実行する。

爵位:戦袍武士(おそらく)一級公士、鎧甲武士(おそらく)二級上造

04    騎兵俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑二号坑

外観:膝を覆う長い上着の上に、上半身は鎧を装備。肩当てはなく、革製の靴を履いている。頭には円形の小さな被り物をしており、顎紐できつく留めている。手は片方で手綱を握り、もう片方で弩を構えている。

装備:弩

兵種:騎兵

役割:四騎一組となり、三組で一列を作って、八列で一縦隊を構成する。起動力として戦車や歩兵と共に作戦を行う。

爵位:不明

05    御手俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑一号坑、二号坑、三号坑

外観:単板の長冠を被り、鎧を装備、両肩とも肩当てはなし。双方の前腕を前に伸ばし、くつわを引き寄せる姿勢をとっている。

装備:なし

兵種:車兵

役割:戦車の操縦。また、統帥が負傷した際に、指揮に用いる道具「金」と「鼓」を担当する。

爵位:少なくとも三級簪裊以上

06    車左俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑二号坑

外観:左右の襟を合わせた長襦の上に鎧を装備。鎧は腕部が比較的短く、肩の部分を覆うのみ。髪は上結いの髷で統一。左手は長柄武器を持つ姿勢、右手は車を下に押すような姿勢をとる。

装備:戈、矛などの長柄武器

兵種:車兵

役割:御手(戦車の操縦者)の防御や戦車作戦の主力として翼面の敵との戦闘を担当。

爵位:不明

07    車右俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑二号坑

外観:服装や甲冑、髪型は車左俑と同じ。左右の手は車左俑と逆で、右手に長柄武器を持ち、左手で車を抑えつけるような姿勢をとっている。

装備:戈、矛などの長柄武器

兵種:車兵

役割:御手(戦車の操縦者)の防御や戦車作戦の主力として翼面の敵との戦闘を担当。

爵位:不明

08    下級軍吏俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑一号坑

外観:単板の長冠を被り、平装の者と鎧を装備している者とがあるが、鎧に花紋は見られない。

装備:剣、戈、矛

役割:下級軍官、職権は中級軍吏俑より低い。

爵位:不明

09    中級軍吏俑

出土位置:秦始皇陵兵馬俑一号坑、二号坑

外観:長襦の上に鎧を装備。長方形でつま先上がりの靴を履き、頭には双板の長冠を被っている。鎧、もしくは花紋をあしらった胸当てを装備している。背中は防具なし。また、前後の裾の長さが同じ彩色のデザインによる魚鱗甲を着ている者もある。右の前腕は自然に下げられ、手は軽く握られている。左手は剣を持つ姿勢をとる。

装備:剣

役割:現場の指揮官として縦隊における一分隊を担当する。

爵位:御手より少し高く、将軍俑より低い

10    将軍俑(高級軍吏俑)

出土位置:秦始皇陵兵馬俑一号坑、二号坑

外観:襦を重ね着し、長方形でつま先上がりの靴を履いている。羽が二本ついた鶡冠を被り、彩色で装飾された魚鱗甲を装備している。両肩および胸部には飾り結びがあり、両手は腹の前で軽く組まれている。

装備:銅戈、剣など

役割:現場指揮官として、少なくとも一縦隊を管理する

爵位:(おそらく)七級公大夫もしくは八級公乗

Tips:

兵馬俑の兵士たちがみな兜を被っていないことにお気づきになっただろうか。歴史学者の考証によれば、戦場で勇敢である様を示し、精神面で敵軍を圧倒するために、作戦として兜を被らなかったのだという。『戦国策・韓策』には、軍功爵制における激励により、敵軍に出くわした秦の軍勢は、敵軍がまるで褒美として与えられる家や出世で見通せる明るい未来に見え、奮起し、まるで鼻先にニンジンをぶら下げられた馬のような奮闘ぶりであったという。また、彼らは一糸まとわぬ姿で戦に臨み、左手で敵を殺しつつ、右手には捕虜を抱えていたという。さすが始皇帝の六国統一を支えた功臣だけある勇ましさである。

—「之潯」より

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