盛夏の季節、中国の多くの都市では、街角の果物屋に鮮やかでふっくらとした荔枝が山のように積まれている。
「長安の荔枝」
中国で現在話題のドラマ『長安の荔枝』では、運送使・李善徳が楊貴妃に新鮮な荔枝を食べさせるため、大唐の国土で時には命がけの「荔枝輸送作戦」を繰り広げる。
荔枝の中国での歴史は非常に古く、2000年以上前の漢代まで遡ることができる。唐代からは、荔枝は皇室への貢ぎ物となり、玄宗皇帝は楊貴妃を喜ばせるため、駅伝の早馬を駆使して荔枝を長安まで運ばせた。この歴史は、荔枝文化の中で最も感動的な一章となっている。
千年の時を経て、荔枝はもはや宮廷専用のものではなくなり、長安の駅伝道路を疾走する早馬から、現在の世界市場で愛される甘い贈り物へと変貌を遂げた。中国の荔枝の物語は、新たな伝説を刻み続けている。
中国フルーツの極上品
荔枝は中国の南方で生産され、広東省を筆頭に、海南省、福建省、広西壮族自治区がそれに続く。広東省は熱帯・亜熱帯地域に位置し、温暖湿潤な気候、肥沃な赤土、豊富な水資源など、荔枝の成長に理想的な自然条件を備えている。
中国には600種類以上の荔枝が登録されており、そのうち一般的なものは30種類以上ある。多くの人は荔枝の品種による味の違いを感じにくいかもしれないが、荔枝の「通」にとっては、品種ごとに収穫時期が異なり、風味にも大きな違いがある。
毎年5月には「三月紅」が最初に市場に出回り、甘酸っぱい味わいが待ちわびた人々に最初の一口をもたらす。その後、収量が多く賞味期間の長い「妃子笑」や「白糖罂」が続々と登場し、甘くて美味しい荔枝の夏が本格的に始まる。
「妃子笑」
「白糖罂」
もちもちした食感の「糯米糍」、ジューシーな「桂味」や「掛緑」、希少な高級品種「仙進奉」などの中晩生品種、そして「冰荔」「観音緑」「巨美人」などの特色ある優良品種が、この甘みを7月下旬まで引き継ぐ。
「桂味」
「観音緑」
中国の荔枝は世界へ
世界の荔枝は中国に注目し、中国の荔枝は広東に注目する。広東省の荔枝の栽培面積と生産量は、全国の半分以上、世界の3分の1を超えており、今年の広東省全体の荔枝の総生産量は160万トン以上に達すると予想されている。世界の5個の荔枝のうち、1個は広東産である。
広東の荔枝は中国国内で大人気を博す一方、海外市場も拡大を続けており、年間輸出量は8000トンを超える。先進的な保鲜技術と優れた味わいを武器に、「妃子笑」「白糖罂」「桂味」などは、早くも海を越えて多くのファンを獲得し、マレーシア、シンガポール、イタリア、アメリカ、オーストラリアなどの国々に輸出されている。
精密な温度・湿度管理を可能にする荔枝冷蔵保鲜技術により、鮮度保持期間は25日程度に延び、出庫後は室温で48時間以上品質が保たれる。見た目や味は収穫直後とほとんど変わらず、異臭もなく、品質も急激に変化することはない。これにより、冷蔵チェーンによる長距離輸送が可能となり、遠隔地の冷蔵庫でも保管できる。
荔枝と嶺南文化
荔枝は単なる果物ではなく、嶺南文化(広東、広西、海南、香港、マカオ、つまり中国華南地域を指す)の象徴でもある。映画『人海同遊』では、荔枝園が物語の重要な舞台となり、荔枝と嶺南の人々の生活との密接な関係が描かれている。
嶺南の職人たちの手にかかれば、荔枝は早くから「文化のトップスター」であた。粤秀(広州刺繍)で針を使って刺繍された荔枝は、近くで見ると殻の模様まで数えられるほど精巧で、遠くから見ると3Dプリントのようである。代表作『紅荔鸚鵡』や『荔香濃』などの作品は、国賓への贈り物として使われたこともある。
2018年、広東省・和歌山県青少年友好交流コンサートで、広東省外事弁公室の代表と日本代表团团长が記念品を交換した。その記念品は広州刺繍の作品『荔香濃』であた。
広彩の「荔枝杯」は、中仏首脳が茶会を開いた際に使用された茶器で、高級白磁に荔枝の模様が描かれており、「嶺南の荔枝の赤」をイメージしている。「妃子笑」のロマンスを国際舞台に運んだ。
無形文化遺産の美食「荔枝柴焼ガチョウ」は、百年ものの荔枝の木で明火焼きにしたものである。荔枝の木の香りとガチョウの脂が融合し、焼き上がったガチョウの肉は口に入れると甘くて香ばしい味わいである。
長安の宮廷で愛された貢ぎ物から、今では世界中の人々が楽しめる美味しさへ。荔枝は「長安の荔枝」から「世界の荔枝」へと見事な変貌を遂げた。荔枝は甘い味わいを届けるだけでなく、中国の文化の魅力も伝えている。
寄稿者:蛍