易しい言葉で理解する雅で上品な昆曲(昆曲行当図鑑)

「行当」とは伝統劇において役者が担当する専門的役割の種類のことである。他の伝統劇の役柄を受け継ぎ、吸収した昆曲では、劇の登場人物を性別、年齢、身分、職業、性格、気質などの要素によって、「生」、「旦」、「浄」、「末」、「丑」という五つの役柄に分けている。彼らはそれぞれ異なるセリフ回し、表現方法を専門的に学んでおり、化粧や衣服などもそれぞれ異なる。

・生

「生」が主に演ずるのは成年男子である。また、細かく分ければ、官吏の冠を被った官生、青年書生である巾生、生活に窮する書生である窮生、英気と武術の腕前に優れた雉尾生、主に殺陣や立ち回りを演ずる武生に分けられ、彼らの隈取はみな「俊扮」を主とし、彼らのあか抜けた美しいイメージを表現している。

官生は冠生とも呼ばれるため、官を演じているキャラクターや冠を被った男子こそが彼らなのだとすぐに見分けることができる。大官生は、帝王や将軍、宰相を演じることもあれば、李白のように人々から尊敬されている文人を演じることもある。年齢が高めになるため、その身分は高く、普通は蟒袍(明・清代に大臣が着た、金のうわばみの刺繍が施された長袍)を着ていて、髯口(長い付け髭)をつけ、穏やかで落ち着いたオーラを身にまとっている。例えば、『長生殿』の中の唐明皇がそうである。一方、小官生は若い官吏であり、沙帽を被り、官服を着て、大官生が持つ風格より、学があり上品である書生の性格にぴったりくる。

巾生は頭に頭巾をかぶり、手には扇子を持っている。洒脱で学があり上品な印象を見る者に与える。端正な化粧から白面書生とも呼ばれる。一般的にはまだ科挙で功を立てていない。『牡丹亭』の男主人公柳夢梅のように、ほとんどは恋愛劇を演じる。

同じ青年書生でも、窮生は巾生よりかなり悲惨である。衣服はぼろぼろで、靴の踵が磨り減っている。化粧は黒の油彩で眉と目の周りの隈取を描いただけで、青白い顔色で歌声も悲しい響きを帯びている。とはいえ、なんだかんだ言っても彼らは最後にはいつもハッピーエンドを迎えることになる。

雉尾生と武生はともに殺陣や立ち回りを演じるものの、両者には大きな違いがある。雉尾生は頭にとても長い雉の尾羽根を2本差した兜のようなもの被っており、その羽の動きでキャラクターの心情を表現する。眉間から額の中央へと真っ直ぐに伸びた赤い太線は、男らしく勇ましいイメージである。『三国演義』の呂布、周瑜のような英姿さっそうとした青年や将軍一族の子などの役は雉尾生が演じる。

一方の武生は立ち回りに関してさらなるプロフェッショナルであり、歌も舞も演じ、その鑑賞性はとても高い。長靠武生は靠と呼ばれる甲冑を身に付け、靠旗という三角の旗を背中に4本挿し、厚底の靴を履いている。長柄武器を使用し、強烈な舞踏動作がより多い。短打武生はそこまで煩わしい衣装を身につけていない。その力強くも俊敏な動作で見せる高難易度の立ち回り技巧で知られている。

・旦

「旦」とは昆曲における女性キャラクターの総称である。旦は年齢や性格の違いによって老旦、正旦、四旦、五旦、六旦、そして作旦に分けられる。老旦はその名の通り、老年婦女の役であり、ときに化粧はお粉を塗らない。穏健な性格であるため、歌唱技術がより繊細に求められ、歌うときに裏声は用いない。

正旦と五旦はともに昆曲の旦役の中で最も重要なキャラクターである。正旦は一般的に既婚の青年女性を演じ、飾り気のない黒いスカートを穿いている。正旦が演じる人物像は、多くが運に恵まれず、貧しい生活を送っているが、卑屈さや傲慢さとは無縁で正直毅然とした性格であるため、正旦の演技を聞くと、力強くほとばしる彼女の感情が伝わってくる。五旦は「閨門旦」ともいい、金持ちの家の娘であり、容姿端麗、静かな物腰の未婚少女である。髪は結って髷にしており、袖口には長い白絹をまとい、扇子を用いて立ち振る舞いの威厳や含蓄を表現する。ほとんどは恋愛劇に登場し、巾生とコンビを組んで演技する。名作『牡丹亭』のヒロインである杜麗娘がまさに閨門旦である。

四旦と六旦は名前に数字を含んでいるものの、それはキャラクターの順序順位を表しているわけではなく、語呂合わせである。昆曲の中の「四」は「刺(し)」の意味である。というのも、彼女たちは劇中で殺したり殺されたりという相応の行為を演じるからである。四旦は非常に大胆果敢で気骨ある性格をしている。「六」は「楽(ラ)」の語呂合わせであり、六旦が演じる役も、例えば富豪の家で働く小間使いなど、地位は低いが活発愉快な若い女の子である。

作旦は未成年の子ども役である。しかし作旦とほかの旦の最大の違いは、彼女はよく男の子役を演じるということである。男の子に比べて女の子のほうが、少年というキャラクターをよりあどけなく、可愛らしく演じることができるのである。

・浄

「浄」は非常に特徴ある男性役であり、役者たちはドーランで顔全体を塗って隈取をするため、観客にとって最も認識しやすい役柄でもある。浄のキャラクターは「赤七、黒八、三和尚」と言われることがあるが、これは浄が主役となる劇計18幕の隈取の種類を要約したものである。

隈取の違いにより、浄は大面と白面に分かれる。大面は主に赤、黒の隈取である。赤はその人物の忠誠を表す。代表的なキャラクターは『三国志』の関羽である。黒い顔は正義感や誠実さを表し、同じく『三国志』の張飛に代表される。大面のキャラクターはみな激しい気性や勇敢な振る舞い、大声で歌うことを特徴とし、「浄」の主体である。一方、白面は白い隈取で、裏切り者などネガティブなキャラクターを演じる。

・末

「末」は髯を生やした中高年男性のキャラクターを専門的に演じているが、彼らの髭は大官生より少し長い。末は年齢によって老生、副末、外に分けられる。老生は40歳前後で、基本的に味方側の人間や主役を演じる。黒い三本髯をつけ、文武ともに演じる。副末は50〜60代の脇役で、性格は忠実従順、白黒の三本髯をつけている。外は70〜80代で、老い衰えた老人という特徴を持ち、長い白髯をつけて非常にまじめな役回りを演じる。このため、舞台上の人物が長い髯の男性なら「末」だと判断でき、また髯の色を見ればそのキャラクターの年齢が分かるのである。

 

・丑

昆曲には「無丑不成劇」(道化役がいなければ劇が成り立たない)という言葉がある。ここから道化役が昆曲でどれほど大事なのかが分かる。道化役はみな善良温厚で正直な人柄だが、社会的地位が低い人物で、『水滸伝』の武大郎のように鼻の両側に白いドーランを塗っている(つまり隈取の小面である)。歌が得意な者、非常に難度が高い立ち回りが上手な者、動物の姿を真似る者など、道化役にはそれぞれ独特な演劇要素や「特技」が求められる。伝統劇の道化役は、どこか現代におけるサーカスのピエロのような存在で、非常に素晴らしい昆曲作品にあっても、道化役の見事で滑稽なパフォーマンスで視聴者を驚かせることは欠かせない。

道化役から派生した副役は、顔の中心部を白いドーランで塗り(つまり二面で)、悪役を演じる。多くは裏切り者の奸臣で、ときには頑固で無知な中高年の婦女を演じることもある。他の役に依存していることが特徴であるため、副役を演じる役者たちは五大役種の仕事も学び、道化役の特徴だけでなく、他の役の動きや表情、言い回しも演じる必要がある。副役はその両面性から、いつも愚かでみじめな結末を迎えるため、彼らの表情や態度は最も生き生きとしており、悪意や恐怖、心配などの感情表現がとても素晴らしい役柄である。副役の滑稽な退場で人々はいつも大笑いするのだ。

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