南京は匂いの魅力を放つことを厭わない街で、街中にはいつもおいしそうな料理の香りが漂っている。このような郷愁を具現化した要素は「炊煙」と総称されているが、徐々に、たまにしか香りがしないようになり、炊煙はなくなっていった。
幸い、南京の老門東には「又見炊煙」がある。
0.2元から10元まで、このワンタンは何十年も包んできた
三条営10号の「又見炊煙薪火ワンタン」、各プラットフォームに常に持ち上げられている小さな店。積み上げられた薪、黒く燻った壁面、古い机と椅子など、この店は年代感に満ちている。薪火のおかげで、情熱が何年も燃え続けている。
朝7時になると、尹さんのワンタン屋は忙しくなる。尹さんの名前は尹正根で、実家は安徽省安慶にある。生計のため、1985年、彼は奥さんと一緒に南京でワンタンを売り始めた。ワンタンは0.2元、0.5元、1元1杯だったが、今では10元1杯になった。
最初は三輪車を押して走り回っていた。市場の前、バス停のそば、夫子廟街道の事務所の前、中華門の近く、尹さんは全部屋台を出したことがある。元の場所が取り壊し立ち退いたので、何度か紆余曲折して老門東の近くに来た。
店が再開した時、尹さんはテレサ・テンの同名の古い歌から取った「又見炊煙」と名付け、過去の生活への追憶を託し、毎日をシンプルに過ごしたいと表した。
昔ながらの味を守り、1日で70、80杯ほど売れる
尹さん夫婦は、ワンタンを包むことからワンタンをゆでること、料理を出すことまで、すでに役割分担があり、息が合っている。
巻いたり、握ったり、突いたりして、尹さんはワンタンを包むのが早くて上手だ。小さな商売だが、食材にはこだわっている。ひき肉は市場で買った新鮮な前モモ肉を使っていて、脂身と赤身の割合は3対7である。ワンタンの皮は薄くてこたえのあるものを選んでいて、煮るとすぐに崩れるものではダメ。ベーススープは骨スープで、コンロは火を消さずに夜通し煮込む。
老尹の奥さんである王春蘭は包んだワンタンを鍋の中に入れ、干しエビ、ネギのみじん切り、ザーサイのみじん切りをお椀の中に入れ、骨のスープをかけ、また茹で上げたばかりのワンタンをすくって、湯気の立つ小ワンタンを食卓に出した。油が浮いてキラキラと光り、皮が透けてピンクのひき肉が見える。どれもキレイな「泡ワンタン」のようだ。ある人は酢を入れ、ある人はラー油を数滴入れ、冬であればワンタン1杯をお腹に入れると全身が暖かくなる。
店のメニューは多くないが、看板のワンタンのほか、南京人が好きな麺やおかずなどもある。小さな店ではワンタンが1日に80杯ほどゆでる、週末や連休には人が多くて、多いときには100~200杯ほどになり、常に20~30人の行列ができて、通り全体がにぎわっている。
ボランティア軽食、無料の公益定食
又見炊煙を有名にしたのは、ワンタンそのもののほかに、「ボランティア軽食」だ。「人が困難に遭うのは避けられません。店に入って『A定食』と言えば公益定食がもらえます。遠慮なくお食べてください!」という注意書きがあちこちに貼ってある。
このような温情的な行動は、尹さん自身が子供の頃、ワンタン屋台で食べたくて歩くことができなかった時、屋台の店主が無料で一杯を贈ってくれたことに端を発している。人を助けたい気持ちを引き継いで、尹さんも無料のワンタンを出した。
店には、数年前のマスコミの記事が貼ってあった。おじいさんは写真の中で素朴に笑って恥ずかしがっていた。尹さんはもう生涯がここまで来たと思って、他人にいいことを言われたいと思った。
金言が絶えず、「宮崎駿さんにワンタンを奢りたい」
尹さんは、白髪と白髭というスタイルから、「宮崎駿のおじいさん」、「ケンタッキーのおじいさん」、「クリスマスのおじいさん」と呼ばれ、ファンも少なくない。尹さんは「漫画を描くのは宮崎駿さんにはかなわないが、ワンタンを包むのは彼は私にはかなわないかもしれないよ。もし宮崎駿さんが南京に来たら、ワンタンをご馳走する!」と話した。
今、一部の常連客はよく尹さん夫婦を見に来る。店には各地から写真やビデオ、トトロのぬいぐるみが届いてくる。たまに南京にいる日本人が来て、わざわざワンタンの包み方を習いに来る。
「南京のどこにもワンタンがある。ここのはそんなに美味しくない」という人もいるが、尹さんは「確かに普通のワンタンだが、誰かの子供の頃の記憶でもあると思う」と話した。気にかけてくれる人がいれば、80歳まで続くと思っている。80歳になったら、別のところへ旅行に行ったり、祖国のすばらしい山河を見に行くつもりだという。
寄稿者:風雅雪月