99%の人はたぶん知らないかもしれないけれど、上海には小さくて素朴な漁村がひとつ、何とか生き延びている。敬意を込めて「上海の最後の生き残り漁村」と呼ばれるその漁村は、大海原まですぐそこという場所にある。その名は金山嘴漁村。ご存知大都市上海だけど、実は最初のころは小さな漁村だった。その頃の上海って、いったいどんなな様子だったんだろう。ひょっとしたら、金山嘴漁村でその答えが見つかるかもしれない。そこではあの頃の「上海」について、ちょっとずつ知ることができるからだ。今日はこの忘れられた片田舎に足を運んでみることにしよう。
東シナ海を望む海岸に静かにその身を横たえる金山嘴漁村は、上海市沿岸部ではいちばん古い漁村で、海を隔てて金山三島と向かい合っている。お昼には金山嘴老街をぶらぶらしてみよう。夕暮れのころには海を眺めながら静かに夕日を待とう。夜が来たら海を枕にして風の歌を聴きながら、空いっぱいに広がる銀河と一緒に眠りに就こう。そして上海湾区の元気な日の出と共に朝を迎えよう。金山嘴漁村にはたくさんの人たちが求めている、味わいあるスローライフが隠されているのだ。
01 世事から遠く、海に最も近い、心安らぐ物静かな古鎮
金山嘴漁村は中国でいちばん美しいレジャー村だ。車を降りるとすぐに目に入る「金山嘴老街」と刻まれた石碑は、あなたをまるで時間が千年巻き戻ったような気分にさせてくれる。老街に入ると、青いレンガに黒い瓦、左右へと対称かつ階段状に傾斜している切妻壁(馬頭壁)、そして明や清の時代の建築スタイルがまぶたに映り、昔ながらの色合いや雰囲気が感じられる。ここの建物は新しく修繕されたものだけれど、その静けさと世俗とは無縁の空気感は以前のままだ。道に沿って並んでいるお店は古めかしいけれど整然としていて、そこには手の込んだいろいろな種類の工芸品が並べられている。ここでは気分をそがれるようなうるさい客引きの声を聞くことはないから、逆に買い物心に火がついてしまう。自分の記念品として持って帰ってもいいし、誰かへのお土産に送るのも最高だ。
もちろんここは漁村だから、老街のなかには魚の要素が非常に多い。壁の落書き、お店の横額、木版の彩色上絵などなど、前へと一歩足を運ぶたびに、景色がどんどん変わっていく。白壁の小さな建物の一棟一棟が陽光の下でまばゆく輝いて、とても美しい。そんな中にいきなり姿を見せる小さなバーや古い旅館には文化の匂いが満々だ。好奇心を胸に抱いて金山嘴漁具館や媽祖文化館、漁民老宅、それに栈橋文化長廊などを探索してみると、漁村の歴史や文化が分かるうえに、素直で飾らない漁村の習俗を感じることができる。
02 漁村市や漁師体験に出かけて本物の漁村民俗を味わおう
過去の金山嘴漁村は有名な漁港だった。ここは清の末から中華民国初期にかけて、春と秋に増水期を迎えるたびに潮見物の遊覧客や魚を買いつける商人たちでごった返して、とても賑わっていた。今でも老街の入り口付近には漁村市と海鮮グルメ街がある。ここでは漁師たちが、自分が汗を流して捕まえた魚やエビを当地ならではのシンプルかつ素材本来の味わいを保つことができる天日干しにして持ち寄り、売っている。ずらりと並ぶ簡易テントの中で売られているのは、小エビ、干し貝、干しエビ、クラゲ、キグチ、ウナギの干物などなど、いろいろな種類の海の幸だ。海鮮の香りが満ちていて、まるで海の中にいるみたいだ。
漁村の老街を十分ぶらぶらしたら、昼食もここで済ませてしまおう。上海人の言葉を借りるなら、ここの漁村グルメは眉毛が落っこちるくらい美味しい。サクッと香ばしく黄金色に揚げられた蝦米油墩子と甘くて美味しい海棠糕は、どちらも老街でその名を轟かせる人気商品だ。現在、これを外で買うのはとても難しく、その姿を探すことができる場所はこの古鎮だけだ。
もちろん、金山魚嘴村に来たからには海鮮のフルコースを食べないわけには行かない。古い漁村の昔ながらの特徴ある家庭料理「原始家常菜」には八大メニューが存在する。たとえば、白煮烤子魚(ツマリエツのあっさり煮)、塩水小米蝦(小エビの塩茹で)、銀魚炒卵(シラウオと卵の炒め物)、紅焼小黄魚(キグチの醤油煮)、紫菜蝦米湯(アマノリと小エビのスープ)、韭菜炒蜆肉(ニラとシジミの炒め物)、葱油炒海瓜子(ホトトギスガイのネギ風味炒め)などだ。これらのグルメは嘴漁村特有の食習慣だから、ほかの場所では食べることができないので、お忘れなく。
もし時間がたっぷりあるなら、漁村で一晩を過ごさないわけにはいかないだろう。夜は砂浜で夕日を眺め、星を数え、そして翌朝の日の出を見よう。きっと漁村の静けさが味わえるはずだ。夜空は穏やかで、まるで月の光をそっとしまうための宝箱のように美しく広がる。寄せては返す波が浜辺の砂や石にそっと口づけする。蒼天が少しずつ暗闇に深く沈んでゆき、静けさが海を包む。月が木々の枝にかかり、星たちが空を満たす。満ち引きする潮はまるでこの漁村の繁栄と衰退を暗示しているようだ。人間の世がどう変わろうと、ただ星空だけは変わらずこうしてありつづけているのだ。
太陽の光、砂浜、そして波……ぜひ金山嘴漁村に足を運び、大海原を眺めて、花開く春の暖かさに身を委ねてみよう。