中国のいちばんおいしい“腊味”はどこにある?

腊味ラーウェイ、それは中国人と冬の季節が共に考え出した美食である。肉や魚をよく乾燥させる腊ラーは原始的な食物保存方法の一種だが、長い美食の探索には、現在では人々の舌に珍重されるソウルフードになっている。中国各地の腊味の制作原理は同じだが、しかしそれぞれ重視する伝統と「秘方」があり、長い時間の変遷を経て風味独特な中国腊味地図を作り上げている。

 

四川腊味――麻辣こそ魂

あなたがどこの人であろうと、四川腊味ラーウェイ――とくに現地の人が珍重する「麻辣香腸マーラーシャンチャン」の盛名はきっと耳にしたことがあるはずである。

 

本物の四川麻辣香腸は、しっかりとした肉質と弾力性に富んだイノシシを原料に作る。赤身とサシが5:5ほどの肉に自貢の井塩せいえんを加えて漬け込み、脱水しながら味をなじませる。さらに漢源の花椒ホアジャオ(山椒)を加え、ピリリと痺れる麻マーの魂を香腸へと注入する。最後に白酒「純糧大曲」と合わせれば、強烈な味覚の刺激のあと、口の中に食べ物の香りと甘みが留まる。

 

麻辣香腸と比べると、排骨香腸パイグゥシャンチャン(あばらソーセージ)はもっと独特な味わいがある。これはあばら骨を一本そのまま腸詰めにしたもので、ソーセージの肉とあばら骨の旨味を同時に味わえる。骨つきの肉をひきちぎりながら少しずつ食べる感覚はとても爽快だ。排骨香腸を食べるのには机すらいらない。テレビを見ながら両手でちぎれば、たちまち美味しいお菓子になる。咀嚼中、うまい具合に軟骨に“コリッ”と出会う。それはまるで宝くじに当たったような嬉しいサプライズである。

湘西腊味――燻してこそ味わい足る

湘西腊肉が有名なのはその独特の「豚のお守り」文化と切っても切り離せない。半ば放し飼いで豚を育てているここでは、逃げ出さないよう豚をお守もりする文化があるのである。そうやって「麻陽十八の怪、豚が犬より速く走る」と言われるほどに丈夫に育った豚肉は、噛み応えがあり、燻製にすると申し分ない味わいになる。

 

トウモロコシ、米糠、サツマイモ、そして青々とした飼葉を食べて育った国産豚を使って、一般的に冬至から立春にかけて腊味を作る。強い辛味を持つ四川腊味とは違い、湘西の人々は必要以上に香料を使うと肉の旨味が隠され損なわれると考えている。干して乾燥させたミカンの皮の粉末を肉に混ぜ込み、相伝の香料を合わせた味は、痺れと辛みの折中である。

 

漬け込み終わった肉はひと塊1.5~2.5キロほどに切り分けられ、暖炉の上にかけて香りのある雑木で燻す。火は弱火、煙は低温、焦ってはいけない。火加減を強くしすぎるべきではないし、途中で火を消してもいけない。2か月後、油で光る腊肉に深紅の色合いが浮かび上がり、しっかりとスモークの香りがついて、やっと大成功と言えるのである。

 

燻しあがった腊肉を素早く切ると、無骨な見た目の内側に繊細な姿が現れる。食卓に上がると、その香りは四方に広がり、薄くスライスされた腊肉の一片一片が水晶のようにきらめく。脂っこくもなく味気なくもないバランスの良い味わいで、脂は口に入れたとたん溶けてしまうほどだ。ほどよい歯ごたえの赤身、柔らかく濃厚に香る皮と脂、一度食べるともう一度味わってしまう逸品だ。肉好きにとって腊味以上に期待に値する美味しさは湘西には存在しないのである。

広東風腊味――腊味界の「フレッシュ&ナチュラル系」

腊味は嶺南の飲食文化の中で大切な役割を演じてきた。山椒を使わず酒の香りと仄かな甘みを強めた広東式腊腸は特に美しく、陽光の下では水晶玉のように輝く。味も十分ユニークで、酒香を帯びた甘みは食する者をまるでほんとうに酔ったかのような気持ちに変え、口に入れると心も愉快になる。

広東式腊腸にはほっそりと美しい顔つきだけではなく、ぽっちゃりと可愛らしい形のものもある。それは矮仔祥アイズシャン小腊腸である。ねじる間隔が普通より短いため、吊るして乾燥させると指半分ほどの長さの小さな楕円形の球になるのである。

透明感ある輝きの3㎝足らずの「ミニ・ミートボール」は切る必要がなく、そのまま火を通す。粒ごと食べると、いっぱいに詰まったひき肉が皮をやぶって飛び出し口内で弾け、肉、脂、酒、陳皮、調味料の香りが四方八方から舌先に向けて湧き出す。

 浙江腊味――見落とされがちな存在

浙江腊味を代表する街の一押しは金華である。食にうるさい健啖家なら「金華両頭烏ジンホワリァントウウー香腸シャンチャン」の数文字を見ただけで垂涎だろう。

どうして両頭烏香腸をすすめるのか。それを語るには原料から始めなければならない。首と尻の毛が黒く、ほかは白い両頭烏は浙江省金華における一種の「名豚」。人々から「中華熊猫猪パンダぶた」というニックネームを送られたこの豚は、肉質の旨味が尋常ではないのである。

ウデ肉にバラの脂身を一部加える。脂身と赤身の比率は2:8である。棒状に切り分けて天日干しにすると弾力がさらに増す。口に頬張ると感じるのは、子どものころのピュアな味わいである。

恩施トゥチャ族の腊味――山奥の薪で煮炊きした素朴な息吹

腊味地図における正統派の名門を四川、広東、湖南、浙江だとすれば、腊味大省湖北はすでに失われてしまったこの世の愛しむべき存在だと言えるだろう。ここでは知らず知らずのうちにだんだんと独自の味の腊味が作り上げられた。また、ここの恩施トゥチャ族の腊肉は有名なのである。

恩施トゥチャ族の腊肉はほかの地区と何が違うのだろうか。先決条件として、恩施は生態環境が良い。山地が広がり森林率は80%に近い。ここは著名な「世界のセレンの都」で、動植物は豊富な量のセレンを含んでいる。つぎに、門外不出のトゥチャ腊肉は農家が12か月以上育てた平飼いの国産豚だけを選んで使っている。こうした豚肉の肉質はよりしっかりとしていて濃厚な味わいになる。そして、冷凍肉を使用しない、その日につぶしたブタをその日のうちに漬け込む。よく漬かった豚肉はそのまま吊るし、堅木やコノテガシワの枝を使って弱火でひと月あまりかけてゆっくりと燻製する。ミカンの皮や木の実の殻を使い、味わいを引き立て香りも増す。時間の洗礼を経ることで鮮やかな豚肉の表面はだんだんと深みある腊肉へと変わっていく。焼く、蒸す、炒める、揚げるなど、トゥチャ腊肉はどんな組み合わせでも食卓に乗せればついつい箸が進む一品になる。

 

これまで長い間というもの、浙江のほどよい塩気を好む人もいれば、広東風の甘みを気に入る人、そして四川腊味の辛さしか愛さない人もいた。味わいという文才の先頭を行くのは、いったいどの味なのだろうか。口に放ったその一瞬に答えはあるのかもしれない。

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