一番人気のB級グルメ決定戦が中国で催されたら、螺螄粉が断トツの一位に違いない。臭くてもクセになる螺螄粉はまるで不思議な力を持っているかのように、この数年間、街角グルメとしてよく食べられるようになった。それに、袋入りのインスタントラーメンの市場シェアも螺螄粉が一部を占めている。しかし、螺螄粉とつながりがある「柳州」という都市はよく知られていない存在である。この都市はSNS映えのスポットがあるわけでもないし、馴染みがある場所でもない。まして多くの中国人に聞いてもどこか分からない都市だが、螺螄粉の発祥地であるこの地にはいったいどんな魅力があるのだろうか。
一
柳州およびその周辺はたぶん中国の広い西南地域において最も住むのに適したエリアの一つだろう。東アジア大陸で降水量が一番多い内陸性気候が形成されたため、雨水が地面に落ちて複数な川になり、どんどん流れていく。流れた水のおかげで、景色が天下一と誇る桂林の山川が育まれ、小さな水生動物がたくさん繁殖できる居場所になった。その例が、螺螄(タニシ)である。
そう、タニシは最も蛋白質を摂取しやすいこの地方の食べ物だ。文字がまだ誕生していない時代から、柳州ではタニシを食べる習慣が受け継がれている。長い歳月を経て、タニシの調理法が徐々に発達してきて、タニシ炒め、タニシの辛口煮込み、茹でタニシ、タニシスープ、タニシの肉詰めなど、ほかの地域には食べられない様々な作り方が生まれた。
二
螺螄のほかにも、充分な降水や温暖な気候のおかげで、筍の漬けものも柳州ならではの特産となっている。
筍は成長が早く、賞味期限が短くて、保存しにくい。しかし、筍を少しだけ発酵させ、乳酸菌を形成したら、保存性が向上し、旨みが保つアミノ酸が作られる。こうした食べ方は多くの地方にある。
広西省で筍の漬物は、筍の浸け方によって二種類に分けられている。一つは、泉水に漬けるもの、もう一つは米の研ぎ水に漬けるものである。後者の筍は水の中にあるでんぷんと一緒に発酵され、鼻をつくような臭いを発する。味も比較的豊富で、よく牛肉の炒めもの、豆と鱧の炒めものなど味付けが濃い料理に使われる。一方で、泉水に浸けた場合、筍の漬物は酸味が増すため、柳州の螺螄粉、南寧の老友麺、桂林の米粉(ビーフン)、侗族の酸辣スープなどの味がさっぱりした付け合わせとしてよく使われている。
それゆえ、螺螄粉は臭い匂いがするが、広西省のビーフンや酸辣スープほどは臭くない。臭すぎると、それはもう本格的な螺螄粉とは言えないだろう。
三
自然が柳州に与えた味、もちろん螺粉(螺螄粉)伝説の成功のすべてではない。柳州を歴史の舞台に登場させたのは「霊渠」という運河のおかげである。この運河は秦の始皇帝によって切り開かれ、初めて湘江と漓江を通じ、長江と珠江がここでつながり合うようになった。その後の千年以上の歴史で、南粤はもう文明未開の地ではなくなり、中原王朝の文化と通じ合って、人的交流が盛んになってきた地域だ。柳州がまさにこの水路を繋ぎ合わせる中継地なのである。
そのため、異なる食文化が柳州でぶつかり合った。螺螄粉に使われるスープはもちろんそのぶつかり合いで生まれたものだ。豚骨やタニシをじっくり煮込んでできた濃厚なスープは典型的な広東式のスープの作り方で、もう一方は、八角、シナモン、丁香、とうがらしなど様々な調味料を加えて、食卓に出す前に酢とラー油を大さじ一ずつ(一つずつ)いれて作る。湖南料理の辛口と広東料理の食材の味をそのまま味わう方法で一味違うものになっている。
四
霊渠の切り開きによって、異なる食文化がぶつかり合ったほか、広西省ではもう一つの食べ物に恵まれた。それが「ビーフン」である。古代、戦争や左遷のため、南方にやって来た米を主食とする北方人にとって、米製品は麺食のかわりになるものである。麺を愛し、客家人を中心にした移住者たちの力によって、広西省では、ビーフンが地元の食文化を語る上で譲れない存在となった。
広西省では、地域ごとに様々なビーフンがある。たとえば、桂林のビーフン、南寧の老友ビーフン、欽州の豚足ビーフン、賓陽の酸味ビーフン、橋圩の鴨肉ビーフン、全州のラー油ビーフン、蒲廟の発酵ビーフン、天等の鶏肉ビーフンなどがあるが、螺螄粉は間違いなくその中で一番有名なものである。
五
自然や地理的な条件に恵まれているため、いつかは人気になる運命だったのではないか。螺螄粉は柳州特有の様々な食材や調理法が用いられ、夜食にぴったりの一品だ。まずはタニシを筍の漬物入りの豚骨汁で煮込み、事前に準備した食べやすいピーナツ、キクラゲ、湯葉、黄花菜などのトッピングを入れる。最後に熱いお湯で麺を茹でたら、もうお客さんに出してもいい頃だ。夜食を食べにくる人たちは早く、こってりして、旨みたっぷりのビーフンを堪能でき、仕事でくたくたになった体の疲れが取れ、一日の張り切った気持ちを落ち着かせてくれる。
螺螄粉の歴史はわずか数十年しかないが、食べ方やスープの啜り方、それにスープやトッピングは柳州の長年の文化の積み重ねを感じさせる。それとともに、螺螄粉は庶民的な食べ物で、B級グルメの性格を持っているため、初めに美食の頂点に登りつくということが予測できる。すべての物事には行き先と帰路があるのだ。
—「食味芸文志」より