小籠包の真の発祥地「嵊州市」8万人が小籠包で家計を支える

一せいろの豚肉小籠包、これは中国で最もよく見られる朝食の一つだ。しかし、「杭州小籠包」の真の発祥地が別の町、即ち嵊州であることは、あまり知られていない。この町はとても小さく、人口もわずか68万人だが、その中の約八万人の嵊州人は全国各地で小籠包を作っていて、三万軒もの店舗を営んでいる。

昔から、嵊州人は饅頭と包子(バオズ)を同じものだと見做している。地元の人は、いつも小籠包のことを「小籠饅頭」と呼んでいる。その中の、「豆腐饅頭」は最も特色のある一品だ。具はシンプルに、豆腐、ひき肉少しに、そして特製の辣椒醤(チリソース)を少々。そのポイントは豆腐と汁とのハーモニー、口に入った瞬間に食材そのものの旨味を感じられる。あんまりにもシンプルで、面倒な調理法は一切なし。しかしこれこそ、百姓がものを最大限に活用する知恵を絞って発明したということの証しである。


「胖大姐(太ったお姉さん)黄澤豆腐饅頭店」が2003年に嵊州で開業されて以来、もう十八年になった。店名にある「胖大姐」本人は今の女店主陳春燕の姑だ。彼女は夫の龔瀟と共に姑からこの嵊州市内越秀路にあった店を継ぎ、三十年以上も包子を作り続けていた姑と同じように、彼らが言う「小商売」を始めた。

ソーシャルメディアの時代に入ると、「胖大姐黄澤豆腐饅頭店」は地元以外でも、広く注目されるようになった。ショート動画が数万回も再生されたことで、多くの人は店の名を慕って、名前すら正しく読めないかもしれないこの小さな街に殺到している。そう、ただ「胖大姐」の豆腐饅頭を一せいろ食べるためだけに。

しかし、嵊州が中国全土に名を轟かせたのは、もう一つの食べ物、「豚肉小籠包」のおかげだった。いまや全国どこにでも見られる「杭州小籠包」は本当は嵊州のもの。「嵊」があんまり見慣れない字だから、異郷を渡り歩く嵊州人は、「上有天堂、下有蘇杭(天上には天国があり、地上には蘇州と杭州がある)」という俗語から「杭」の字を借りて、「嵊州小籠包」を「杭州小籠包」に変えた。客寄せのためにしたことだが、間違ったままその名は広がっていってしまった。

今日では、五万人の嵊州人が全国各地で豚肉小籠包を作っている。この包子は肉餡を用い、皮が厚いため、南北各地の人の口に合うし、保存もきく。一つは庶民的な「豚肉小籠」、もう一方は消費期限が極めて短い「豆腐小籠」。この二つが嵊州料理の二本柱となっている。その中で嵊州人は面倒なものを自分で取り扱い、便利なものを皆に捧げることにしたのだった。

嵊州の甘霖鎮で、瀋紅平は「両頭門小籠包」という店を営んでいる。彼の店は「豚肉小籠包」の専門店。「胖大姐」一家と似ていて、瀋紅平の技は叔父から受け継いだ。彼女の店では、包子の皮のひだも、しっかりと工夫されていて、約20のひだを入れないといけない。また、「鯉の口」も残して、包子の「換気」をよくするようにしている。

2014年に嵊州で第一回の小籠包大会が開催され、瀋紅平は数十名の選手を勝ち抜いて、頭角を現した。このような大会は今では「招待試合」をも開催するようになった。地元政府は全国各地の小籠包のプロを見物や試合参加に招き、単なる「食べ物」であった小籠包を組織性と鑑賞価値のある一種の「生態」にしつつある。そこで働く人々の教育も段々規模が拡大している。

波の流れに乗って、名が響く「嵊州軽食」と比べて、嵊州自身は物静かな小さい町である。ここは、江蘇や浙江にある数多くの中小規模の町とは、全然区別がつかない。雨の日には水が濁り、真夏に豪雨に見舞われる一本の川がうねうねと流れていき、町の基本的な区画となった。新しい区にはまだ販売中の高層マンションが聳え立ち、真新しいコミュニティ公園にはステンレス製の巨大な彫刻が佇んで、まるで現代都市への憧れが物理的に保存されているような眺めである。一方、旧市街地にはマッサージ屋、バイク・タクシー店、様々な味を味わえる料理屋が点在する。小籠包と比べて、嵊州人は明らかにもっと多くの選択肢を持ちたいと思っている。小籠包に関しては、ちっとも目立たないが、永遠に掲げ続けるじゃないかと思わせるそこらの看板以外に、気配すら感じられない。例えて言うと、これは一人の人間を巡る物語のようだ。井戸端会議で口々に語られるものはいつも大きな反響を呼ぶが、生き生きと語るモノローグは寂しげに誰も耳を傾けない。

しかし、陳春燕は自分の外で起きる全てのことに平然とした態度で接する。「胖大姐」はかつてこう言った。「包子は質素なもの。人も質素でなければならない」と。彼らは使命のように見える大事業を望んだことはない。鮮やかな将来は彼らの夢ではないのだ。なぜかというと、最初から「豆腐饅頭」はただの質素な生業に過ぎなかったから。「胖大姐」は山海の珍味が好きではない。彼女は最も白くきめ細かい豆腐、最も新鮮なひき肉と採りたてのネギを選び、そして調理して質素なものを作る。ただこれだけで、お客さんを喜ばすことができる。自分の作った包子はうまいかどうか、勿論彼女は知っている。しかも、それを疑ったことは一度もない。彼女はこういった。「私たちが百姓のことを一番よく分かっているから」と。

—「梁霄」より

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